ケーススタディ

2016.08.17更新

新宿御苑前で法律事務所を運営している弁護士の石原です。

 

今日は、薬物で執行猶予付きの有罪判決を受けた直後、再度使用の罪で逮捕されてしまった若者のケースをご紹介します。

 

1 執行猶予中の犯罪

 


 

 

執行猶予というのは、有罪で刑(例えば懲役1年6月)を言い渡されたけれど、同時に一定期間(例えば3年間)はその刑の執行を猶予し、その期間を過ぎれば刑の執行をしないという制度です。これに対し、猶予せずに刑の執行を猶予しない判決を俗に実刑判決などといいます。

薬物使用の初犯は、ほとんど執行猶予がついているのが現状です。

 

ただし、執行猶予は無罪放免ではありません。執行猶予は、その期間中に再度罪を犯したときなど、取り消されることがあります。

執行猶予が取り消された場合は、前回の裁判で猶予された刑に、再度の罪で宣告された刑が加えられます。先ほどの例で懲役1年6月の刑が猶予され、社会内で更生することを期待されたにもかかわらず、3年以内に再度罪を犯してしまい、懲役1年6月の実刑判決が宣告された場合は、3年の懲役刑となってしまいます。

 

2 今回の依頼者について


 

 

今回の依頼者は20代の若者で、仕事を一生懸命すぎるほど一生懸命やっていました。

そのせいか、多大なストレスから知人に勧められた薬物を断り切れず、使用してしまい、一時的にストレスや疲労感から解放された気がしたため、仕事が忙しくなると頑張るために繰り返し使用するようになってしまいました。

そんな中、職務質問から薬物の使用がばれてしまい、一度目の裁判を経験しました。しかし、家族や友人には裁判について伝えず、秘密のうちに執行猶予付きの有罪判決を受けることになりました。この裁判で、本当に反省し、二度とやらないと誓い、自分でも薬物をやめられると信じていました。

しかし、ひょんなことから裁判後に薬物を手にしてしまい、その誘惑に抗えず、いけないことだと分かっていながら再度使用してしまいました。さらに不運は続き、全く別の事件で警戒中だった警察官に職務質問を受け、薬物の使用がばれてしまったのです。

 

 

3 依頼と弁護活動


 

 

今回、刑事事件として弁護を依頼されたのは当然ですが、それ以上に本人も、ご家族も、依存症からの回復を強く望まれていました。

そこで、NPO法人アパリに相談したところ、ダルクへの入寮を提案されました。

アパリとのサポート契約、ご家族の身柄引き受け、ダルクの施設長からも身柄引き受けをお約束いただき、起訴後に身体拘束から解放される保釈を認めてもらうことができました。裁判までの一ヶ月を、薬物依存からの回復のためダルクで頑張る期間とするため、直ちにダルクの寮に連れて行ってもらいました。

ダルクではミーティング等のプログラムを通し、薬物依存から回復するためには何が必要なのか、どんな生活をすべきなのか等、沢山のことを学んだようです。

私もダルクの寮まで様子を見に行き、丸一日ダルクでの生活を観察して、裁判所に報告いたしました。

 

ご家族も、依頼者が刑を終えた後、どうやってサポートしたらいいのか学ぶため、家族会に何回も参加して熱心に勉強してくれました。

 

4 結果とまとめ

 


 

 

今回の裁判は、再度の執行猶予は認められませんでしたが、求刑に対し6割以下の宣告刑となりました。

ご本人も、20代の貴重な時間を塀の中で過ごすことになってしまいますが、これぐらいなら取り戻せると控訴せずに受け入れていました。

 

結論としては、実刑を避けることができませんでしたが、他の類似裁判と比べて、非常にいい判決だったと思われます。

そのような判決が得られたのは、弁護士である私が頑張ったから……というわけではありません。

一番頑張ったのはご家族であり、ご本人です。裁判の結果よりも、体や心、将来のことを考え、依存症からの回復を第一に活動したことで、結果として軽い刑で済んだ事案でした。

 

弁護士は、環境調整のためにアイデアを出し、裁判上で主張することはできますが、本人のために環境を作ってあげられるのはご家族です。その環境を生かすのはご本人です。

ご家族や大事な人が薬物の使用で逮捕されてしまい、困っている人、何をすればいいのか分からない人は弁護士にご相談ください。今回の事案も、最初の裁判の時ご家族に打ち明けて相談できていれば、もしかしたら再犯は防げたかもしれません。初犯は執行猶予だからと油断せずに、裁判を機に薬物依存から回復できる環境を作っていきましょう。

 

 

 

投稿者: 石原晋介法律事務所

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